映画体験×探求学習!子どもの思考形成を導く「TOHO CINEMAS BOAT」
2024.04.22
子ども達が気軽に行ける映画館のひとつ、それがシネマコンプレックス(ひとつの施設に複数のスクリーンがある映画館)通称シネコンです。これは人気アニメの映画化や邦画やハリウッドなどの大作が上映され、今では洋画の大作のほとんどに「吹替」上映もあるほどです。けれど最近は、サブスクリプションで気軽に映画も見られる環境になり、映画館離れも懸念される中、ファミリー映画や子どもに人気の作品を多く上映するTOHOシネマズが子ども向けに新たな試みをスタートさせています。
子供を招いた映画館体験とはなんなのか。そして子どもに優しく気軽な映画館を目指す為の試みを伺います。(聞き手・伊藤さとり)
教えてくれたひと:
TOHOシネマズ(株) 大河原雄亮さん
子どもに映画体験をしてもらう「TOHO CINEMAS BOAT」
ーー「TOHO CINEMAS BOAT」がスタートしたきっかけを教えて下さい。
大河原:東宝グループが掲げているサステナビリティ(持続可能な未来の為に今やれること)活動の一貫として「TOHOシネマズに出来ることはないか?」と立ち上げたものです。今の子ども達は映画館以外にも映画を楽しめる環境や方法が増えました。そういった中で、小さい頃から映画や映画館に興味親しみを持ってもらいながら、自治体や学校、映画製作者の方たちと協力して、子供たちに映画館での鑑賞体験を起点とした学びの機会を提供する「思考形成」プロジェクトにしていきたいと思っています。
ーー それで映画『PERFECT DAYS』と組んで、渋谷区の子ども達に渋谷区のトイレ掃除体験と映画鑑賞という体験で、実際にどう感じたのかを話し合う上映会を実施したのですね?
大河原:アクティブラーニング(これまで多かった教員の一方的な講義形式の授業ではなく、生徒が能動的に考え、学習する教育法)の考え方でいうと、題材に対して子ども達が当事者意識をどこまで持てるかということが重要だと考えています。その点で今回の映画『PERFECT DAYS』という作品は、それこそ身近にある渋谷区のトイレを舞台にし、その清掃員の日常を映画にしているため、特に渋谷区に住んでいる子どもたちにとっては、とても身近に感じられる作品であり、作品自体ももちろん素晴らしかったですが、アクティブラーニングの題材としても最適だと思いました。そこで実際に働くトイレ清掃員の方と一緒に渋谷区の公共トイレの清掃を体験してもらい、その後すぐに自分たちが清掃したトイレが登場する映画を観て、鑑賞後に「どうやったら皆がトイレを綺麗に使ってくれるのか?」というテーマで、議論してもらいました。身近なものを題材にしたことで、子ども達も自分事と捉えて積極的に意見し議論できていると感じましたので、とても有意義なアクティブラーニングの場になったのではないかと思っています。
ーー 映画を通して色々なお仕事体験をすることで、社会について気づいてもらうということですね。その後、渋谷区立猿楽小学校の5年生による映画館見学をおこなっていかがでしたか。
大河原:今までもお子さまたちを対象にした職場体験や映画観賞会などはありましたが、今回のような本格的なプログラムや規模で実施したことは初めてでした。子ども達に映写機の操作体験をしてもらったり、『MIRRORLIAR FILMS PROJECT』製作のショートムービー「可愛かった犬、あんこ」を上映する際には、配給会社のand picturesのスタッフさんから映画制作について直接話をしてもらったりと、子ども達にとっても貴重な体験になったのではないかと思っています。
上映後には子ども達からの質問を受け付ける時間を設けましたが、質問を通して小学生の皆さんと交流してみると、最近のアニメ作品の人気の後押しもあって、映画というものに高い関心を持ってもらえているということを実感できました。質問も映画館に関する内容を中心に、子どもらしい純粋なものからとても専門的なものまであって、映画館という場所が引き続き小学生たちにとって魅力的な存在であるということを再確認でき、とても嬉しかったです。
今回の取り組みが、子ども達が映画や映画館をさらに好きになってくれるきっかけになってくれれば喜ばしいですし、今回の体験が楽しい思い出=当社の基本理念である「GOOD MEMORIES」として皆さんの心に残ってもらえると大変嬉しいです。
ーー 今後も見学会は継続してやっていかれますか。
大河原:今回の取り組みが実現した背景としては、グループ全体のサステナビリティへの取り組み、「TOHO CINEMAS BOAT」の実施と、伊藤さんからの職場体験のご提案が、方向性とタイミングの両面でマッチしたということが大きかったと思います。
また、SDGsやCSRの観点ももちろんですが、今回、実際に子供たちと交流したことで、こういった取り組みは今後も子供たちに映画に親しみを持ってもらうという点からも重要だと感じました。通常上映との兼ね合いなどの課題もありますが、今回の内容を社内で共有し、今後の実施に関して協議したいと思います。
赤ちゃんと楽しめる【ベイビークラブシアター】とは
ーー 【ママズクラブシアター】から【ベイビークラブシアター】に名前が変わったのも時代ですか。
大河原:20年ほど前に【ママズクラブシアター】をスタートしましたが、お母さんだけではなく、お父さんやおじいちゃんおばあちゃんとも来ていただきたいという想いで、2022年より現在の「ベイビークラブシアター」に変更いたしました。
ーー 【ベイビークラブシアター】は何歳ぐらいが対象ですか。
大河原:未就学児のお子様をお連れのお客様が対象になります。料金は、大人は通常料金、大人のひざの上で鑑賞する場合の赤ちゃんは無料で、席に座る幼児の場合の料金は1000円になります。高さ調整ができるチャイルドシートもご用意しております。ベイビークラブシアターでは、通常よりも映画の音量を下げ、照明も明るめに上映して、赤ちゃんや小さいお子さんが怖がりにくい環境にしています。ママやパパにとって赤ちゃんや子どもを見守りやすく、また、周りのお客様も幼いお子様とご一緒ですので、泣いてもお互い様という優しい環境です。
ーー 月に何回ぐらい開催されているのですか。
大河原:毎月1回~2回、木曜日の午前中の回です。お子さんを連れて行きやすい時間帯に開催しています。私の子ども達も映画館デビューは【ベイビークラブシアター】でした。実際にお客様の立場として自分で利用してみると、自社の取り組みながらとてもよいサービスだと思いましたし、ありがたいなと感じました。
子どもが映画館で映画を観るメリットとは
ーー 最近はサブスクリプションなど、映画館に行かなくても映画を観ることが出来ます。子ども達が映画館で映画を観るメリットを教えて下さい。
大河原:やはり、映画だけを集中して観ることが出来る環境だと思います。例えば自宅ですと、電話や宅配便が来たり、他の作業をしてしまったり、映画だけに集中して映画を観ることが難しいですよね。でも映画館ならそういった外的要素を排除して、自動的に映画に集中することが出来る。2時間近く集中して映画を観ることでストーリーもより頭に入りますし、理解も深まり鑑賞後の感想もより具体的なものになります。今は「タイパ」という言葉が多用される時代ですが、自分の子供たちを見ていると、映画館という遮断された世界で映画を観ることで、集中力、考える力、感じたり、話の内容をまとめたりする力が育つのではないかと感じています。もちろん迫力ある大画面、大きな音も魅力の一つです。
ーー 子ども達が入る映画のジャンルはなんですか。
大河原:やはりアニメ作品です。
ーー 以前より増えたのですか。
大河原:アニメ映画の興収自体が上がっていることが大きな要因でもあります。去年1年間のヒット作品を見ても、トップ3はアニメ映画で、トップ10のうちの8作品がアニメかマンガ原作の作品でした。もちろん「ゴジラ-1.0」や「PERFECT DAYS」のような実写の素晴らしい作品もありましたが、去年は特にアニメ関連のヒット作が数多く生まれたことが、子供たちが映画館に来てくれた大きな要因だと思いますし、アニメやマンガ原作の実写映画を見るようになることで、映画館に親しんでいってもらえると嬉しいです。
子供の座席料金はいくらなのか?
ーー 今、子どもの映画料金はいくらですか。
大河原:3歳から高校生まで1000円です。2歳までで座席が必要ない場合は無料です。お座席が必要な場合は料金(1000円)をいただいています。
ーー 座席が動いたり、匂いや水などが出るアトラクションのようなスクリーン体験「MX4D」は何歳から観られますか。
大河原:MX4Dは年齢ではなく身長の制限があり、安全の為、身長100cm未満の方はご利用いただけません。座席が動くため、ジェットコースターなどのアトラクションと同じように、お一人でしっかりと椅子にお掛けいただくため、身長制限を設けさせていただいています。
映画だけではないライブ上映も人気
ーー 子ども達に映画館に来てもらうために工夫していることがあれば教えて下さい。
大河原:映画館の場所によって上映作品を工夫しています。例えば、ファミリーが多い地域ではファミリー向けの映画の上映回数を増やしたり、お客様の層に合わせて上映時間を決めたりするなどです。
あとは、ライブ・ビューイングや国内外のアーティストさんなどドキュメンタリー映画の上映も最近増えています。小学生・中学生の皆さんにも人気があり、幅広い層のお客様にお越しいただいています。
ーー だから最近、音楽系のライブ映画が増えているのですね。
大河原:大いにあると思います。アーティストや演劇のライブ・ビューイングを上映させて頂くとたくさんのお客様に劇場にお越しいただけます。やはりコンサートチケットがなかなか取れないからですよね。それにコンサート会場の遠方に住んでいる方は、例えば東京ドームに行かなくても、地元の映画館で生中継を大画面で観ることができます。親御さんたちも子ども達だけで遠くに行かせるのは心配ですが、、普段からよく行く地元の映画館なら安心して行かせられるというお声もお聞きしました。
映画館という場所がお子様にとっても親御さんにとっても、【安心して楽しめる場所】であり続けるというのも、今後も映画館にお越しいただく上で重要な要素なのかもしれません。
伊藤さとり
映画パーソナリティ/心理カウンセラー。映画コメンテーターとしてTVやラジオ、WEB番組で映画紹介。映画舞台挨拶や記者会見のMCもハリウッドメジャーから日本映画まで幅広く担当する。
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