ひとり遊びが好きな子、実はそうしているだけの子〜映画「あめだま」が描く会話の大切さ
2025.02.25

いつもひとりで遊んでいる小さなドンドンがひょんなことで手に入れた不思議なあめ玉。一粒、口に入れるとどこからか声が聞こえる。
その声がする方へと向かうと辿り着いたのは古いソファだった…。
ひとり遊びが好きな子はいるけれど、本当にその子はひとり遊びをしたいのか。
よく観察すると見えてくるその子の本音。
米アカデミー賞短編アニメ賞ノミネート
児童文学界のノーベル賞とも言われているアストリッド・リンドグレーン賞を受賞した韓国の絵本作家ペク・ヒナさんの原作を日本のアニメーションチーム(東映アニメーション)が短編映像化。それが今年の米アカデミー賞短編アニメーション賞にノミネートされ、この度、2月28日から2週間限定で劇場公開されることになりました。上映時間は21分。全国19館で上映され、鑑賞料金は一律1000円。世界に認められた短編アニメーションはお子さんと一緒に楽しむのには丁度良い上映時間で、説明セリフもないので感性を育てるのにはぴったりな内容です。
人形アニメ?実はフルCG!

物語の舞台は韓国。
スタッフによりしっかりと街並みが再現されているのだけれど、ドンドンたちの言葉は関西弁?!まさにアジアンミックスと言えるこの短編、一瞬クレイアニメーションでは?と目を疑ってしまうけれど、実はフルCG。これは原作の世界観を大切にアニメーション化されたからで、絵本は作家のペク・ヒナさんが人形制作をし、撮影したものからページが展開されているから。しかも日本での翻訳は関西人の長谷川義史さんだからか、関西弁。
そんな個性溢れる絵本の世界が、美しいCGにより動き出すのです。特に浮遊する風船ガムが話すシーンは可愛らしく、後半の落ち葉が宙を舞っていくシーンは少年の転機を表現するようで圧巻です。
話すのが苦手な子だっている

でもどうしてひとりぼっちのドンドンが、ソファや老犬の声を聞く物語なのでしょうか。実はペク・ヒナさんは内気な性格で、人とのコミュニケーションも得意ではないそうです。そう考えて短編を見ると、ドンドンは自分から話しかけることをなかなかしません。犬が話し出した時、犬自身“俺の話を聞こうとしなかったじゃないか”というような言葉を発します。その後、帰ってきた父親の心の声を聞いた時、親である自分たちを投影するだけでなく、自分の親のことを思い出し、胸がいっぱいになって涙が溢れました。
話しをすること自体、勇気がいることもある

ドンドンの父親は、帰ってくるなり「宿題はしたか?」「部屋を片付けろ」と口うるさく息子に注意をします。ドンドンは「はい」と言いながら、言われた通りに行動します。この親子のやりとりは「指示」と「返事」の繰り返しであり、決して「日常会話」ではないのです。
そうなると、ドンドンの話を聞いてくれるのは誰なのか。この結果、ドンドンは人に話を聞くことを日常で学べないので、話しかけることはもちろん、話しをすることにも勇気が必要になるのかもしれません。
会話って大事

この絵本が大人からも愛された理由は、コミュニケーションが苦手な人の気持ちにも寄り添うものだったからでしょう。話しかけてもらいたいなら、まずは自分から話しかけることが大事であると伝えているようでした。それはどんな些細なことでもよくて、会話に面白さなんていらないのです。現にソファとの話しはたわいもないこと。それでも相手の気持ちを知ることで、その人との距離は今まで以上にグッと縮まります。大事なのは、相手を知ろうとすること。勝手に相手の気持ちを想像するのは失礼。実はまったく違うこと考えていることも多いのだから。
『あめだま』
2月28日(金)全国19館にて2週間限定公開
公式サイト:https://www.toei-anim.co.jp/movie/magic_candies/

伊藤さとり
映画パーソナリティ/心理カウンセラー。映画コメンテーターとしてTVやラジオ、WEB番組で映画紹介。映画舞台挨拶や記者会見のMCもハリウッドメジャーから日本映画まで幅広く担当する。
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