パパゲーノ効果って?学校に行けないきみへ、映画『かがみの孤城』

コラム

2022.12.09

©2022「かがみの孤城」製作委員会

「パパゲーノ効果」という言葉があります。これは「死にたい」気持ちを抱えた人が、どうやって「生きる選択」をしたのかを伝えることで、多くの人の自殺を止める効果があるのではという考えです。しかもコロナ禍に入って自ら命を落とす人が増えただけでなく、いじめのピークと言われる小2から更に低年齢化が進みつつあるという報告もあり、「パパゲーノ効果」の必要性をテレビでも取り上げられるようになりました。

映画『かがみの孤城』辻村深月×原恵一×A-1 Pictures

そんな中、一本のアニメーション映画が冬休み公開に向けて完成しました。それは2018年本屋大賞・史上最多得票数を得て多くの賞に輝いた辻村深月さんの原作を、『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』『河童のクゥと夏休み』などの原恵一監督が映画化した『かがみの孤城』という作品です。しかもアニメーション制作は『劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『心が叫びたがってるんだ。』という青春映画を多く手がけるA-1 Picturesという強力タッグが実現。
まさに子どもはもちろん、子を持つ親にも向けられた親子でも見られる作品なのです。

ファンタジーの世界で本当の自分を知る

物語の主人公は中学1年生のこころ。彼女は学校へ行けず、母親とフリースクールを訪れますが、やはり家から出ることが出来ません。そんなある日、部屋の鏡がピカリと光り、吸い寄せられるように鏡の中へ。するとそこは大きな城の入り口で、自らオオカミさまと名乗るオオカミのお面を被った小さな女の子が目の前に立っていました。彼女に引っ張られて城の中に入ると、すでにそこには6人の子ども達の姿が。オオカミさまに来年の3月末までの間に、城の中に隠された鍵を見つけた者に願いを叶える権利が与えられると告げられる7人でしたが、彼らには共通の問題がいくつもあったのです……。

不登校には必ず理由がある

「学校に行かないじゃなく、行けないの」
こころが母親に対してそんな思いを馳せるシーンがあります。実は学校に行けない理由は必ずあり、それを親に言えない理由だったり、自分でも理由が分からない子どもが多いと、以前、取材をしたフリースクールの先生たちは話していました。そんな時、親はどんな声がけをすればいいのか?物語の中盤からその対応方法が描かれているのも、この映画が現実を忘れるような娯楽的作りではなく、現実社会で子ども達がどう自分と向き合い、親はどう対応するのがベストなのかに焦点を当てた映画制作なのだと実感します。「不登校」といっても理由は様々、いじめなどがエスカレートすれば「死にたい」気持ちを持つことだってあり得るので、無理に行かせる必要もないのです。

パパゲーノ効果を意識したアニメ作り

そんな繊細な心に向かって「パパゲーノ効果」を願うように作られた映画作りは、原恵一監督が以前手掛けた、一度死んだ少年が生まれ変わって中学生活をやり直すという森絵都さんの原作をアニメ映画化した『カラフル』(2018年)にも通じるものがあります。特に悩んでいる多くの子ども達に届けたいから子どもが見やすいアニメーションという手法を使い、最近のアニメの特徴である激しい感情表現や細かいカット割りをあえて抑えた演出を用い、あくまでも疲れた心に寄り添う原恵一監督作品。

寂しさにも寄り添う歌の必要性

さらに本作『かがみの孤城』のエンドロールに流れる書き下ろしによる主題歌「メリーゴーランド」を担当するのは、「ドライフラワー」が若者の間で大ヒットとなった優里。寂しい心を代弁するような心の叫びを歌詞に乗せつつ、優しくメロディで奏で上げた歌は、きっと多くの子ども達の気持ちとシンクロして彼らの孤独を抱きしめることでしょう。

伊藤さとり

映画パーソナリティ/心理カウンセラー。映画コメンテーターとしてTVやラジオ、WEB番組で映画紹介。映画舞台挨拶や記者会見のMCもハリウッドメジャーから日本映画まで幅広く担当する。
●連載一覧はこちら>>

※この記事は、令和2年度第3次補正事業再構築補助金により作成しました

タグ:

Page Top