さかなクンが我が子だったら?映画『さかなのこ』に学ぶ子育ての鍵

コラム

2022.08.12

(C)2022「さかなのこ」製作委員会

「男か女かはどっちでもいい」
この言葉が本編の冒頭に映し出される2022年9月1日公開の映画『さかなのこ』。
実は、さかなクンの半生を綴った自伝「さかなクンの一魚一会 ~まいにち夢中な人生!~」に、フィクションを織り交ぜながら脚本開発を行い、『横道世之介』の沖田修一監督が再構築した作品なのです。

性別なんかで区別しない

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しかも主人公ミー坊を演じるのは、女優/創作あーちすと・のん。というのでこのキャッチコピーを目にした私達はすんなり物語へ没入出来るのですが、中性的な魅力を放つのんさんの学ラン姿を目にした瞬間、「別に男だろうが女だろうが好きな格好をすればいい」と視認するのもこの作品の大きな魅力です。

好きを見つけたら没頭させる

(C)2022「さかなのこ」製作委員会

冒頭、船の上でテレビカメラに向かい、元気いっぱいに魚の解説を始めるミー坊が映し出されるのですが、その後すぐに幼少期へと時代は溯ります。

小さなミー坊はおさかなが大好きで寝ても覚めてもおさかなのことしか考えられない子ども。ある時、さかなクン演じるギョギョおじさんと出会い、おじさんの家で時間を忘れて水槽を見つめてしまったことで家族に心配をかけてしまいます。
それでも家族の中で一人だけ、ミー坊の生き方を肯定するお母さんは、ミー坊の為に毎晩毎晩、さかな料理を作ってずっとおさかなに興味を持たせようと取り組むのです。

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やがてミー坊は高校生になるのですが、いつまでも子どものように天真爛漫で、相変わらずさかなのことしか興味がありません。けれど、誰に対しても同じ態度で接することから不良グループの総長やヒヨとも仲良くなるのです。そしてこの関係がミー坊の未来を大きく変えていきます。

この子は自立出来るのだろうか?という不安

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「夢は、おさかな博士になること!」と元気良く言えたところで、おさかなに関わる仕事がしたいと思っても、時間を忘れ一つのことに夢中になってしまうミー坊には、社会の決まりを守るのは難しい。更に人の思いを汲み取れずに自分の好きなことでしか動けないミー坊には、誰かの為に仕事をすることも困難。特技はおさかなの絵を描くことと、おさかなについて説明すること。それを知っているお母さんは、周囲の心配をよそに「ミー坊は好きなことをしていればいい」とミー坊を全力で応援します。

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けれど、もし自分の子どもがミー坊のようだったら…。果たしてそこまで自信を持って応援できるのでしょうか?将来、この子は自立出来るのだろうか?ちゃんと食べていけるくらいのお金を稼いでいけるだろうか?ずっと一人だったらどうしよう?と不安になったりしないでしょうか?

子どもの好きを仕事に繋げるには

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そして映画を見ていると、さかなクンが悩まずに今まで生きてきたわけではないと気付かされます。その理由としては、自分のコミュニケーション能力の低さに悩むミー坊の姿は、フィクションとは言い切れないようなエピソードばかりで、人の親としては胸が締め付けられたりもするからです。
ではどうやって、さかなクンは、今のように子ども達の憧れの存在となってテレビや講演に引っ張りだこになったのでしょうか?

(C)2022「さかなのこ」製作委員会

そこにはお母さんが言い続けた「あなたは大丈夫」という“自己肯定感を育てる”子育てと、好きを辞めずに続けることを自分がおさかな料理を作り続ける姿を見せるという“実践のお手本”が鍵となっている気がします。
そんなにも真剣で真っ直ぐな生き方をしていれば、見ている人を惹きつけ、“いつか誰かが手を差し伸べるから大丈夫”、そう映画は伝えているようでした。

更にこのメッセージは主題歌にも詰まっているんです。なぜなら、この映画のために書き下ろされたCHAIの「夢のはなし」には、“好きなことを思う存分本気でやり続けよう”という思いがギュギュッと詰まっていて、聞くだけで子育ても頑張れそうなポジティブソングになっているのだから。

伊藤さとり

映画パーソナリティ/心理カウンセラー。映画コメンテーターとしてTVやラジオ、WEB番組で映画紹介。映画舞台挨拶や記者会見のMCもハリウッドメジャーから日本映画まで幅広く担当する。
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映画『さかなのこ』

■出演: のん 柳楽優弥 夏帆 磯村勇斗 さかなクン 井川 遥
■9月1日(木)よりTOHOシネマズ 日比谷 ほかにて全国ロードショー
■原作:さかなクン「さかなクンの一魚一会 〜まいにち夢中な人生!〜」(講談社刊)
■監督・脚本:沖田修一
■脚本:前田司郎
■主題歌:CHAI「夢のはなし」
■音楽:パスカルズ
■製作:『さかなのこ』製作委員会
■制作・配給:東京テアトル
■(C)2022「さかなのこ」製作委員会

※この記事は、令和2年度第3次補正事業再構築補助金により作成しました

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