騎士の勇気が世界を救う?『ストールンプリンセス:キーウの王女とルスラン』
2023.09.14
戦争が起こると映画作りも困難に
映画は世界各国で作られています。けれど戦争が起こると映画製作どころではなくなるし、武器の費用などにも国の予算は使われてしまいます。更に戦争が起こると対立国の映画も上映できなくなります。となると今、ウクライナとロシア間で起こっている戦争(ロシアによるウクライナ侵攻)により、今まで隣国として交流のあった人間関係をも分断されてしまうということになります。
ウクライナとロシアの友好な関係から生まれたアニメ
今回ご紹介するアニメーション映画『ストールンプリンセス:キーウの王女とルスラン』は、ウクライナの映画であり、原作はロシアの国民的詩人アレクサンドル・プーシキンによるもの。そう、まさに今は敵国となってしまった国の詩人が書いた物語を気に入ったウクライナのスタッフ達が、戦争が勃発する前の2018年に作った今や「平和の象徴」的作品なんです。しかも悲しいかな、2022年からの戦争によりウクライナにあったプーシキンの記念碑も取り壊されたそうです。
ウクライナの青年が本物の勇者になる物語
物語の舞台はウクライナの首都キーウ。「騎士の子が騎士になれる」という選択のない世界で、騎士になる夢を持つルスランは、役者の息子として生まれました。ある日、彼は街で悪党に襲われているミラを助けます。彼女に恋したルスランはつい自分は騎士だと嘘をついてしまうのですが、ほどなくしてミラは悪の魔法使いに連れ去られてしまいます。なんとかミラを助けようと親友の助けを借り、魔法の国へと向かうルスラン達。果たして立ちはだかる試練の数々に彼らは打ち勝つことが出来るのでしょうか、そしてミラを無事、救えるのでしょうか。
ヒーローとは力が強いのではなく、誰かを救おうとする行動
本作で伝えようとしているのは、「肩書き」に縛られるなということ。「騎士」だからといって強いわけではないし、強さというのは力ではなく、誰かを助けようと行動ができる人だと映画は綴っています。更に人はひとりでは目標を達成できず、多くの人の助言や手助けによって成功を手にするということも描かれているんですよね。だからこの映画を子供達が見れば、自分一人でなんでも出来ると思わずに、話し合ったり相談することで「夢は叶う」と知るきっかけになるはず。
日本公開に漕ぎ着けた裏にはひとりのヒーロー的女性の力が
それだけでなく、この映画の背景には更に熱いメッセージが隠されていました。それは戦争が始まって、本作を知った映画を宣伝する仕事をしている女性(粉川なつみさん)が、軍事侵攻に苦しむウクライナの人々を勇気づけたいという思いで動き出したことでした。まずは勤めている会社に相談したものの配給は無理だと分かった時点で会社を辞め、自身のほぼ全財産を切り崩して映画を買い付けました。更に日本の子ども達にも映画を見て欲しいと願い、クラウドファンディングで950万円ほどの資金が集まったことで人気グループINIの髙塚大夢さんや「推しの子」で星野アイの声を務める高橋李依さん他豪華キャストによる日本語吹き替え版が完成。利益の一部をウクライナに寄付するそうです。
文化を応援することで人の命は救える
映画を観ることで戦争により苦しめられている人を救える。そんな道を作ったひとりの映画宣伝女子の勇気は、間違いなく「騎士」そのもの。行動することの大切さ、人に助けを求めることで夢は叶うと伝える『ストールンプリンセス:キーウの王女とルスラン』、早く戦争が終結することを願い、多くの子ども達に届けたい映画です。
伊藤さとり
映画パーソナリティ/心理カウンセラー。映画コメンテーターとしてTVやラジオ、WEB番組で映画紹介。映画舞台挨拶や記者会見のMCもハリウッドメジャーから日本映画まで幅広く担当する。
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ストールンプリンセス:キーウの王女とルスラン
日本語吹替版CAST
ルスラン:髙塚大夢(INI) ミラ:高橋李依
レスター:岡本信彦 チェルノモール:多田野曜平 ファラフ:森久保祥太郎 兜男・金歯男:石田明・井上裕介(NON STYLE) 国王:別所哲也
監督:オレ・マラムシュ 制作スタジオ:Animagrad
日本語吹替版
配給:KADOKAWA、Elles Films 宣伝:Elles Films 音響制作:東北新社
日本語吹替版主題歌:INI「My Story」(LAPONE Entertainment)
原題:Викрадена принцеса: Руслан і Людмила(英題:The Stolen Princess)
後援:ウクライナ大使館
2018年/ウクライナ/カラー/DCP/5.1ch/94分
© 2018, SSVG EAST FUND INVESTMENT LIMITED
© 2018, “ANIMAGRAD” LTD
© 2018, Ukrainian State Film Agency
©『ストールンプリンセス:キーウの王女とルスラン』製作委員会
※この記事は、令和2年度第3次補正事業再構築補助金により作成しました
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