世界が注目する「公立小学校」ドキュメンタリー映画に描かれる教育の可能性

コラム

2024.12.06

⼩学校〜それは⼩さな社会〜© Cineric Creative / NHK / Pystymetsä / Point du Jour

今、学校教育が見直されています。
その理由のひとつに、日本では2020年に学校教育の改訂が行われたこともあり、文部科学省ではアクティブ・ラーニング(対話的学び)を重点とした教育方針を発表しています。特にカリキュラム・マネジメント(社会に開かれた教育課程)は、地域の特性を活かしつつ、子どもが自信を持って思いを発言できる教育であり、自分で生きる力を見につけて欲しいという願いもあります。

そんな中、今年2作の「小学校教育」を題材にした映画が12月に公開されます。どちらも公立の小学校。この2作から興味深い答えが見えてきたので紹介していきましょう。

日本の小学校が舞台の映画

⼩学校〜それは⼩さな社会〜© Cineric Creative / NHK / Pystymetsä / Point du Jour

まず、ひとつめは日本のある小学校の様子を撮影したドキュメンタリー映画『小学校~それは小さな社会~』(2024年12月13日公開)。コロナ禍で撮影を行い、1年生と6年生に焦点を当て、入学式から卒業式までの1年間をカメラは見つめていきます。初めての学校生活にドキドキする新1年生のお世話をする6年生。コロナ禍だからマスク、向かい合わせではなく通常の机の向きで透明カバーで覆った机で給食を食べる子ども達。

音楽発表会においては、主体性を持たせる為にオーディション形式で楽器担当を決め、何度も落ちては悔し涙を流す生徒を慰める友達や、途中で自信を失い演奏出来なくなった生徒に先生が自信を持たせようと声がけをする様子など、子どもの心の成長が映し出されます。

日本の公立小学校の良さ

⼩学校〜それは⼩さな社会〜© Cineric Creative / NHK / Pystymetsä / Point du Jour

実は本作、世界各国の映画賞で観客賞やドキュメンタリー賞を受賞し、フィンランドでは20館の拡大公開で大ヒットを記録。でも私たちからすると当たり前の公立小学校教育のドキュメンタリーが、何故、そこまで賞賛されたのでしょうか。その理由は、監督を務めた山崎エマさんの視点にありました。彼女はイギリス人の父と日本人の母を持ち、日本の公立小学校を卒業後、中高はインターナショナル・スクールに通い、アメリカの大学に行ったそうです。ある時、自分の責任感の強さや勤勉さが小学校教育にあったことに気づき、ドキュメンタリー映画を撮ろうと立ち上がったのでした。

世界から注目を集めるTOKKATSU

⼩学校〜それは⼩さな社会〜© Cineric Creative / NHK / Pystymetsä / Point du Jour

特に日本の公立小学校が海外の小学校と違う点は、子ども達で行う日直、掃除や給食の配膳、運動会や発表会、クラブ活動といった協調生を育てるための特別活動(TOKKATSU)でした。この日本式教育TOKKATSUは、今、世界的に注目されており、エジプトなどの小学校でも取り入れられています。確かに集団で発表をする特活は、算数や国語、社会といった個人のテストでの結果ではなく、皆で声を掛け合い、話し合い、助け合い、達成する集団カリキュラムです。このドキュメンタリーでも涙腺が緩まったシーンは、特活に挑む子ども達の姿であり、上手くいかない悔し涙であり、皆に迷惑をかけないように自ら練習する姿でもありました。

メキシコの小学校が舞台

型破りな教室© Pantelion 2.0, LLC

続いて紹介するのは実写映画『型破りな教室』(12月20日公開)です。これはアメリカとの国境近くにあるメキシコ・マタモロスの小学校で2011年に起きた実話を映画化したものです。この町は麻薬売買や殺人が頻繁に起こる治安の悪いエリアで、貧困に苦しむ家庭で暮らす子ども達が小学校に通っています。パソコンは盗まれて授業でも使えず、学力はメキシコ国内で最低レベル。先生達もやる気を失っている中、学校にひとりの新任教師が赴任してきます。フアレスという先生は、並んだ机を嫌い、あるユニークな教育方法に挑むのです。

学力最底辺から全国レベルになった授業とは

型破りな教室© Pantelion 2.0, LLC

実は映画化になった理由には、この先生が起こした奇跡にあります。この先生の一風変わった授業によりクラス全体の成績は一気に上がり、うち10人は全国上位0.1%のトップクラス入りを成し遂げたからなんです。

では一体、どんな授業なのか。フアレス先生はネットで見たある授業方法を生徒たちに実践します。それは教科書ではない体験型の研究でした。映画では、机や椅子をどかして床に寝転んで遭難した演技をする先生が、船が沈まずに皆を救う方法を考えてもらうことから始まります。まさに遊ぶように学ぶ方法。そこから生徒たちに皆で考えるよう、グループ分けをして答えを導き出したり、実際にその答えが正しいか実験をしてもらうんです。

映画が大ヒットした理由

型破りな教室© Pantelion 2.0, LLC

けれど映画の舞台は治安の悪い環境なので、子ども達の能力だけでは道は切り開けません。たとえ才能があろうとも家に進学する為のお金が無かったり、不良グループから抜けることの難しさが課題として出てきます。子ども達が自分で今の状況をどう判断し、どう抜け出していくのか。更に生活に困った親が子どもの未来に介入することについて、どう打破するのかもしっかりと綴っていました。

お陰で本作は、映画賞の中でも有名なサンダンス映画祭観客賞ほか、多くの映画賞を受賞。本国メキシコでは300万人を動員し、その年のNo.1大ヒットとなりました。ちなみにフアレス先生を演じたのは、米アカデミー賞作品賞に輝いた感動作『コーダ あいのうた』(2021)の音楽教師エウヘニオ・デルベス。ハリウッドのウォーク・オブ・フェームに名を刻むメキシコ人スター俳優です。

2作から見るより良い小学校教育とは

型破りな教室© Pantelion 2.0, LLC

実は二つの学校教育は違うように見えて共通点があります。
それはどちらも教科書には書かれていない実践的な活動であり、ある時点から先生が介入せずに子供たちで助け合うような空間作りというものでした。確かに机に座って本を読んで書くだけでは、つまらないと思ってしまうのが子ども。そう考えると、子どものやる気スイッチを入れるには、ワクワクするような発表の場を用いることかもしれません。TOKKATSUのひとつである音楽発表会や学芸会は、皆で呼吸を合わせて行うお披露目の場。フアレス先生の授業はクイズのような課題から皆で答えを探し、正解を実験でリアルに見せる算数の学び。どちらも仲間と力を合わせて目標達成を目指します。

以上の点を踏まえると小学校での学びとは、もちろん社会に出る為の基礎知識を学ぶ場でもありますが、塾などでは得られない「皆で目標を達成する喜びを知る」為の教育なのかもしれません。どんなことも教え方次第で子どもはグングン吸収する。確かにクイズ形式で問題を出すと子ども達は目を輝かせながら答えると思い出した映画体験でした。

⼩学校〜それは⼩さな社会〜
12⽉13⽇(⾦) シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
配給:ハピネットファントム・スタジオ
監督・編集:⼭崎エマ
公式サイト shogakko-film.com
公式X @shogakko_film
公式Instagram @shogakko.film

型破りな教室
12月20日(金)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国公開
配給:アット エンタテインメント
監督・脚本:クリストファー・ザラ
公式サイト https://katayaburiclass.com/
公式X @katayaburiclass
公式Facebook https://www.facebook.com/katayaburiclass

伊藤さとり

映画パーソナリティ/心理カウンセラー。映画コメンテーターとしてTVやラジオ、WEB番組で映画紹介。映画舞台挨拶や記者会見のMCもハリウッドメジャーから日本映画まで幅広く担当する。
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