「死ぬ」ってなぁに?と聞かれたら。幼いわが子へ伝える「生きる喜び」

コラム

2023.02.09

© 2020 picomedia srl digital cube srl nowhere special limited rai cinema spa red wave films uk limited avanpost srl.

子どもの未来を考えた先に優先すべきこと

ある年頃になると子どもの口から出る「死ぬってなぁに?」という質問。確かに「死」への恐怖心から眠れなくなるという子どもも居たりして、どうやって答えていいのか分からずに悩んでしまう親御さんも多いのでは?そんな悩みに答えつつ、子育てにおいて一番大切なことに気づかせてくれる映画が『いつかの君にもわかること』でした。

主人公は余命宣告を受けた窓掃除の仕事をするジョン。彼はシングルファーザーとして幼稚園児のマイケルを男でひとつで育てて来たのだけれど、病によって愛する息子とお別れをしなければいけなくなります。マイケルの母親は生後間もなく家を出て行って行方不明。となれば“養子”を望む家庭にマイケルの未来を託すしかなく、ジョンは息子の新しい家族探しを始めるのですが、様々な考えを持つ大人との出会いによって、彼はある考えに辿り着きます。

子どもにとっての幸せってなぁに?

この映画の素晴らしい点は、「誰もが自分ごとに感じる演出」にあります。それは、余計な説明セリフや回想シーンなどを排除した情報量の少ない脚本により、「自分と照らし合わせやすい」ストーリーになっていること。そして2人にそっと寄り添うようなシンプルなカメラワーク(撮影方法)で撮っているから観客が彼らを身近に感じやすいんです。

だからこの親子の関係を「自分ごと」のように観られ感情移入してしまい、「子どもの幸せは?」に気づかされるのでした。裕福な家庭が良いのか?子供が多く養子経験が豊富な家庭が良いのか?子供が居ない夫婦が良いのか?子育てを熱望する独身の女性が良いのか?止まらない涙を拭いながら映画を観ていると、子育ての忙しさで忘れがちな「子どもにとっての幸せ」を再確認することも出来ました。

死ぬことは生きることを伝える作法

監督であるウベルト・パゾリーニの前作は、ミニシアターで話題を呼んだ『おみおくりの作法』(2013)で、昨年公開された阿部サダヲ主演『アイ・アム まきもと』として日本でリメイクもされました。実は前作も孤独死した人を弔う公務員の姿を通して「死生観」を描いていて、今作では「子育て」と「死生観」という2つの柱で物語は進んでいきます。実はどちらの作品も実際の記事から物語を生み出したもの

そんなパゾリーニ監督が考える「死」とはなんなのか?私が2作品を見て感じたのは「思い出として生きる」というものでした。

『いつかの君にもわかること』では、幼いマイケルが「死」について父親に質問します。するとジョンはこんな感じのことを言うのです。「死んじゃった昆虫みたいにもうすぐ身体だけになるけど、近くにいるよ。太陽の中、雨の中、ブドウの味にだって、だから話しかけて」と。思い出の中にも居ると伝えるように自分の物を息子へ渡そうと箱に詰めるジョン。

確かに沢山の思い出を作ればその分だけ「その人のことを感じられる」。だから「死」を伝えるって、実は子どもに「生きる喜び」を伝えることだったんですよね。それにしても100人の中からオーディションで選ばれたマイケル役のダニエル・ラモントくんが可愛すぎる!だから尚更、泣けるのでした。

いつかの君にもわかること

2月17日(金)より、YEBISU GARDEN CINEMA他全国順次公開
配給: キノフィルムズ
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伊藤さとり

映画パーソナリティ/心理カウンセラー。映画コメンテーターとしてTVやラジオ、WEB番組で映画紹介。映画舞台挨拶や記者会見のMCもハリウッドメジャーから日本映画まで幅広く担当する。
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※この記事は、令和2年度第3次補正事業再構築補助金により作成しました

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