子育ての多様性?『こちらあみ子』に考える子どもの”好き”の伸ばし方

コラム

2022.07.22

©️2022『こちらあみ子』フィルムパートナーズ

「人と違う」「変わった子」……。
2022年7月8日から公開中の映画『こちらあみ子』では、少し風変わりな主人公・あみ子の行動が、家族や同級生など周囲の人たちを否応なく変えていく過程が鮮やかに描かれています。
「子育てにおける多様性を考える」。
映画パーソナリティの伊藤さとりさんにコラムを寄せてもらいました。

普通ってそもそも何?

「この子は人とちょっと違う」そんな言葉を耳にする度に、「普通って何だ?」と思いませんか?今や特別支援学級が設置された小・中学校も増えてきましたが、社会の目はまだまだ「特別視」で、そもそも「障がい」とはなんなのか思うところがあります。

©️2022『こちらあみ子』フィルムパートナーズ

この映画の主人公・あみ子(大沢一菜)もそんな子のひとりであり、小さい頃から「変わっている」と周囲の子どもや大人たちに言われながら、広島の自然豊かな空気の中で虫たちに目を向け、自由に生きている女の子です。幼馴染みの男の子に一途で、チョコレートクッキーのチョコレートの部分を全部舐めて、その子にクッキーを食べさせるのもあみ子なりの愛情表現。そんなあみ子を見守るお兄ちゃん、いつも穏やかなお父さん(井浦新)、そして書道教室の先生であみ子に厳しく、もうすぐ赤ちゃんが生まれるお母さん(尾野真千子)という家族は、ある出来事をきっかけに少しずつ崩壊していきます。

自分達と違う者を嫌う心理

©️2022『こちらあみ子』フィルムパートナーズ

やがてあみ子が小学校に入ると、授業をじっと聞けないあみ子に対して生徒がいじめの対象にしたり、大好きな幼馴染みからも拒絶されたりと純粋すぎるあみ子には理解できない状況が起こり始めます。
映画は、そんなあみ子の視点を大事に、時に一点を見つめたり、時に疲弊した両親の姿を映し出しながら、あみ子の小さな世界の気になるものを捉えていくのです。
「普通にしなさい」「ちゃんとしなさい」、子育てをしているとついそんな言葉を吐いてしまうけれど、それは人からの目を意識した親の思考であり、あみ子を見ていると「扱いづらい子」という概念こそ、大人たちが作り上げた大人に都合の悪い子なのだと気付かされます。

その子をしっかり見ていれば分かる個性

©️2022『こちらあみ子』フィルムパートナーズ

原作は今村夏子が2010年に発表し、太宰治賞、三島由紀夫賞をW受賞した「あたらしい娘」(のちに「こちらあみ子」に改題)。その本に惚れ込んで映画化したのは、本作で監督デビューを果たした森井勇佑。そして音楽を担当するのは、包み込むような歌声で国内外で活動する青葉市子。彼女による書き下ろし主題歌「もしもし」は、柔らかなピアノの音色と囁きかけるような歌声で、子どもを抱きしめるような温もりに溢れています。

©️2022『こちらあみ子』フィルムパートナーズ

物語という形で客観的に見れば、あみ子の行動はあみ子ならではの思いやりなのに、その行動が人を傷つけることも本人は分かっていない。結果的に傷口に塩を塗られ、心を閉ざしてしまう母親や、疲れた父親の決断も仕方がないことだと観客の私たちは彼らの心労を察して理解できるのです。

映画『こちらあみ子』が伝えてくれたこと

©️2022『こちらあみ子』フィルムパートナーズ

願わくば、多くの人たちが他人の子どもや親たちに手を差し伸べたり、せめて受け止めてくれたら物語は違う方向へと進むのに。何故ならあみ子の感情に焦点を合わせた映画からは、彼女の感情の鋭さや豊かな想像力が見えてくるのです。そしてこの子を抱きしめたいという思いに駆られるのだから。「普通」に囚われず、この子の性質を見ている人が一人でもいれば、子どもの真っ直ぐな「好き」を一緒に伸ばせる。映画はそれを伝えているようでした。

伊藤さとり

映画パーソナリティ/心理カウンセラー。映画コメンテーターとしてTVやラジオ、WEB番組で映画紹介。映画舞台挨拶や記者会見のMCもハリウッドメジャーから日本映画まで幅広く担当する。
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映画『こちらあみ子』

■出演:大沢一菜 井浦 新 尾野真千子

■監督・脚本:森井勇佑
■原作:今村夏子(「こちらあみ子」ちくま文庫)
■音楽:青葉市子

■配給:アークエンタテインメント
©️2022『こちらあみ子』フィルムパートナーズ

■公式Twitter:https://twitter.com/amiko_2021

※この記事は、令和2年度第3次補正事業再構築補助金により作成しました

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