自閉症のブルーノはなぜ生まれた?クリエイティブディレクターに聞く「トーマス」制作秘話

子ども達が最初に好きになるキャラクターに、日本では「それいけ!アンパンマン」がいて、世界で見ると「きかんしゃトーマス」がいます。彼らは人間のようでパンだったり、列車だったりしますが、馴染みのあるルックスだからこそ子ども達は興味を示し、やがて自分を投影していくのです。

そんな人気キャラクターの「きかんしゃトーマス」は絵本としてイギリスで誕生してから今年で78年目。今では国連とコラボして女の子の列車や環境問題の改善を描くなど、SDGsにも積極的に取り組んでいます。

テレビアニメーションとしてもお馴染みですが、今年は映画になってスクリーンに再び登場。『映画 きかんしゃトーマス 大冒険! ルックアウトマウンテンとひみつのトンネル』は、貨車が消えたり、トンネルから声が聞こえたりする古い鉱山の謎にトーマス達が挑むお話。

さらに2022年からテレビアニメ版に登場した新しい仲間で、自閉症と正式に発表された【ブルーノ】も大活躍。製作陣が思う“子ども達の世界とトーマスの世界のリンク”についてお話を伺います。(聞き手:映画パーソナリティ・伊藤さとり)

モニカ・デニス

マテルTVのクリエイティブ・ディレクターとして、『きかんしゃトーマス』の2Dシリーズ『All Engines Go』を2019年から監督。各エピソードや映画のコンセプト立案から納品まで、クリエイティブ・チームをまとめている。

色々な個性があるほうが、沢山の考え方があるほうがベター

ーー 今回、自閉症の【ブルーノ】というキャラクターが大活躍します。【ブルーノ】というキャラクターを登場させた理由を教えて下さい。

モニカ・デニスさん(以下、モニカ):『きかんしゃトーマス』シリーズの魅力のひとつが、ありとあらゆる種類のキャラクターを登場させられることです。観ている人には、自分自身に似ているキャラクターを見つけて欲しいですし、共感して欲しいと思っています。

もともと、『きかんしゃトーマス』のファンの方々のコミュニティは老若男女、更には自閉症スペクトラムのコミュニティの土壌にもかぶっているんです。多くの自閉症の方がずっとファンでいて下さっているんです。

それもあり、今回は満を持して【ブルーノ】という自閉症のキャラクターを登場させることが出来て、個人的にもワクワクしました。キャラクターをただ作る(登場させる)だけではなく、実際に脚本を担当された方(ダニエル・シェアストロム)は自閉症ですし、【ブルーノ】の海外の声優さんも自閉症です。コンサルタントの方や専門家の方、当事者の方の意見を取り入れながら一緒に、しっかりとしたキャラクターを作り上げていきました。

子ども達から観て、【トーマス】達のような元々いるキャラクター達ととても良い友人関係を築けていたり、一緒にいるからこそユーモアが生まれたり、興味を持つことが出来るキャラクターとして【ブルーノ】を作っていきました。

それに【ブルーノ】は自分の仕事を凄く重要に思っています。これも重要なポイントです。というのもブレーキをかける車両ということで、大きな荷物を運ぶ時には欠かせない存在です。だから他の車両にとって、仕事の上でも本当に大事な存在なんです。友人関係であり、仕事では皆を助けている存在でもあるキャラクターであるということも魅力のひとつだと思っています。

そしてシリーズのメッセージにも被りますが「この世界、何事においても色々な個性があるほうが、沢山の考え方があるほうがベターである(優れている)」ということに繋がっていきます。 

ーー【ブルーノ】はイヤーマフ(大きな音をやわらげる道具)を着けていますよね。そこも音への過敏も含まれる感覚過敏という部分をきちんと描こうとしていたのではないか、と思いました。イヤーマフのエピソードはどのような経緯で入れられたのですか。

モニカ:今回参加してもらっている自閉症の脚本家から頂いたアイデアです。彼とお話している中で自分たちの実体験として、世界をどんなふうに感覚的、間接的に捉えているのかなどを聞きました。それに過敏などに対するツールもあります。そのツールがどんなものであるのかにもよりますが、自閉症の方でなくても、私たちは自分自身が生きやすくする為に普段から色々なツールを利用していますよね。つまり、私たちとまったく同じ考え方なんです。【ブルーノ】は仕事上、どうしてもうるさくなる環境にいることが多いので、過敏になる時にイヤーマフを着けるというアイデアを採用しました。そうすることで自分の仕事を楽しくすることが出来る、続けることが出来るという考え方です。

脚本家やコンサルタントの方に自分たちが実体験として経験したことを沢山聞いて、それらを拾ってキャラクターに入れています。そうすることで子ども達の日々の生活が反映されますし、具体的にそのような状況にある方の感覚もしっかりと反映されているのでリアルなキャラクターになっています。

ーー 確かに周りにいるキャラクターたちが【ブルーノ】とどのように付き合っているのかもきちんと描かれていますね。何よりも【トーマス】が【ブルーノ】のことを理解していることが素晴らしかったです。

モニカ:ありがとうございます。
元々、皆が【ブルーノ】のことを知っていて、皆が彼のことを大好きという設定にしたかったんです。内輪ネタではありませんが、ユーモア、ジョークを言えるようなそんな関係であるということを最初に見せることによって、彼らの遊んでいる姿や仕事をしている姿の中で【ブルーノ】というキャラクターに触れてもらいたいと思いました。

力を合わせることで何かが生まれてくる

ーー『きかんしゃトーマス』という世界観を作るうえで、モニカさんが大事にしていることはなんですか。

モニカ:今回の作品では、特に若い列車達を本当の子ども達のように感じてもらうことを意識しました。実際の子ども達のように遊び心があり、リアルで、時には間違いも起こしてしまうような、そんなふうに描くことが出来れば子ども達が観てくれた時に自分自身の姿をそこに投影して、共感してくれると思いました。

もちろん、大人や家族も『トーマス』のブランドにとっては重要な存在であり続けています。何世代にもわたって観て頂いている作品でもあります。子ども達や若い子達だけでなく、彼らとジェームスやエミリーのような列車達との関係性、大人のキャラクター達との関係性にユーモアを持たせたりするなどして、面白い部分もすごく重要視しています。だからこそ親が観ても、家族が観ても面白いものになっているのだと思います。

ーー【カナ】は日本から来た超特急ですが、国籍が違う機関車など多くのキャラクターが登場します。色々な列車を生み出す時に、気にかけていることはありますか。

モニカ:魅力的なキャラクターが既にいます。彼らは何世代にも渡り愛されています。私達はそこからストーリーを考え始めます。もちろん新しいキャラクターを登場させるチャンスがあれば、彼ら(トーマスたち)とどんな友人になれるのか、どんな個性を持っているのかを考えます。そして、実際に子どもが好きなこと、あるいは好まないことを考え、それが列車だった場合、どうなるのか?列車自体の機能と個性をぶつけあって繋げていきます。例えば、【カーリー】や【サンディー】は修理を行う列車です。修理を行う性格でもあるし、それを反映した姿(クレーンを背負っているなど)の列車でもあります。これまで存在しているキャラクターがあり、さらに新しいキャラクターを加えていきますが、列車が持つ個性、キャラクターの個性、そして子どもらしさ、それらをしっかり合致させることを大事にしています。今までの既存のキャラクターとしっかり合うかどうかも大事です。

ーー「人間を列車にしたら?」という作り方なのですね。普段から子ども達を見るなどのリサーチをされているのですか?

モニカ:そうですね。「全ての人を見ている」ということはあるかもしれませんね。
クリエイティブなチームを集めています。色々なストーリー、個性を持った方々に参加してもらいたいと思っていて、力を合わせることで何かが生まれてくると思っているんです。面白いのは、列車のお仕事も同じなんです。考えてみれば一両では成り立っていないんです。皆が連結したり、協力することで、ある種列車というものは機能している。キャラクターも同じで一緒に力を合わせていかないといけない。そういう意味では人間の個性は、それぞれの列車の個性に合わせていけるんです。そこが面白いところでもあります。

大好きなキャラクター、大好きなシーンについて話して欲しい

ーー あるエピソードではスピードを競うことによって、自分勝手では上手くいかなくて、パートナーと共同作業することが大事だということが描かれています。今回は“見えないものへの恐怖”です。第一印象で物事を怖がったり、避けたりしてはいけないというメッセージのように思いました。毎回、伝えるメッセージはどのように考えているのですか。

モニカ:もとから子ども達、そして家族に関する素晴らしいメッセージを持った作品だと自負しています。
南部では、「プレイラボチーム」をやっています。親御さん達にお話を聞く、リサーチみたいなものです。その中でずっと続いて来たこのブランドの「核となるものは何なのか?」ということを確認して、そして、それぞれのエピソードが今(現在)の親と子にとって「非常に意味深いテーマであるかどうか?」を考えます。それをさらに物語のメインである友情、チームワーク、コラボレーションに繋げて落としていきます。それに加えて、子ども達のことも考えます。先ほど、スピード競争の話が出ましたが、子ども達はある年齢になると競い合う時期が来ます。そういうエピソードも上手く落とし込むようにしています。

ーー 最初の入り口が『きかんしゃトーマス』で、その後、ドラマや映画が観られるようになっていく。子ども向けのアニメーションは、大変な作業によって作られていくんだと思います。ご自身が子ども向けアニメーションに関わったことで、大変だと感じた部分、気を使った部分を教えて下さい。

モニカ:子ども達、家族に対してのものを作っていくということが、私は心から好きです。子どもは、物語を聞きたがりますよね。その中で何かを見つけてくれる。だから、作り手としてすごく報われると感じるのは、聞いた物語をそのまますぐに真似して演じてくれたり、「ママ、これはこんな話だよ」と話してくれたりすると本当に嬉しいです。

作品を作っている時も彼らがどんなふうに受け取ってくれるのか?楽しんでくれるのか?ストーリーをどんなふうに理解してくれるのか?それらをしっかりと考えます。作品自体も娯楽性があり、子ども達にとっても最適であること。例えば「悪い言葉を使わない」などです。そして、しっかりと物語に入り込めること、サプライズの楽しさもそこにプラスして作るようにしています。

子ども達がこれから色々なものを観ていく中で、第一の作品(ストーリー)になれるというのは、これほど特別なことはないです。自分たちも最初に観た作品は、いつまでも思い出したりしますよね。誰かの一番に自分が関わった、手掛けた作品がなっていると思うと胸が熱くなります。

やはり『きかんしゃトーマス』の場合は、家族皆が愛せるキャラクターだからこそ、自分の子ども達に引き継がれ、その子ども達が更に子ども達へと引き継がれていく。代々と愛が引き継がれていくキャラクターだということも、また魅力だと思っています。 

ーー 映画にも子どもが覚えやすい歌が登場しますよね。

モニカ:はい、頭の中にずっと歌詞やメロディが残ることを意識して歌を作っています。おじいちゃん、おばあちゃんになっても、孫が教えてあげられるくらいに残るものであって欲しいと思っています。だからこそ、本作で登場する歌も是非、歌って欲しいです。ただ歌うのではなく、皆さんの役立つ形で歌ってもらえたら嬉しいです。

お子さんがリアルタイムで悩んでいるなら、その悩みを乗り越えるためのヒントを曲が与えてくれるのであれば、是非、歌いながらその悩みを解決していって欲しいと思います。そして、大好きなキャラクター、大好きなシーンについて話して欲しいです。あとは列車で遊んで欲しいです。皆で一緒に床に座りながら列車で遊んで欲しいという気持ちがあります。親子一緒に遊ぶことで喜びを分かち合えると思うので。

『映画 きかんしゃトーマス 大冒険!ルックアウトマウンテンとひみつのトンネル』
2024年4月19日(金)より全国ロードショー!
【原作】 「汽車のえほん」ウィルバート・オードリー
【声の出演】 田中美海、越乃 奏、大久保瑠美、古賀英里奈、山藤桃子、山下七海、土師亜文、竹内恵美子
【ゲスト声優】ディーン・フジオカ、やす子
監督:キャンベル・ブライヤー
脚本:クレイグ・カーライル、ダニエル・シェアストロム
提供:ソニー・クリエイティブプロダクツ
配給:東京テアトル 配給協力 : イオンエンターテイメント
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映画公式HP https://movie2024.thomasandfriends.jp
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伊藤さとり

映画パーソナリティ/心理カウンセラー。映画コメンテーターとしてTVやラジオ、WEB番組で映画紹介。映画舞台挨拶や記者会見のMCもハリウッドメジャーから日本映画まで幅広く担当する。
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