自分のプログラミングを私たちは超えることが出来る─『野生の島のロズ』クリス・サンダース監督インタビュー

ディズニー・アニメ『リロ&スティッチ』の監督であり、ゴールデングローブ賞アニメ映画賞を受賞したドリームワークスのアニメ『ヒックとドラゴン』の監督、クリス・サンダース。彼が監督を務めるドリーム・ワークス・アニメーション30周年記念作品『野生の島のロズ』は、第97回アカデミー賞®のノミネート発表において、【長編アニメーション映画賞】、【作曲賞(クリス・バワーズ)】、【音響賞】の3部門にノミネートされるなど、多くの映画賞で賞賛されているロボットと野生動物たちの心の交流と、子育てについても描いたファンタジー・アニメーションです。

親子で観るのにもピッタリの本作で来日したクリス・サンダース監督に、アニメーション映画作りのコツや、映画に込めた子ども達へのメッセージ、そして絵が上手になる方法を伺いました。(聞き手・伊藤さとり/写真・奥野和彦)

『野生の島のロズ』クリス・サンダース監督インタビュー

ーー とても素晴らしい作品で私も大好きでした。

映画のロボット【ロズ】は、ピーター・ブラウンの原作の【ロズ】とはデザインが違いますが、映画の【ロズ】のデザインはどのように生まれたのですか。

監督:もともとのイラストは原作者であるピーター・ブラウンが描いています。そのイラストを見て頂くとわかるのですが、非常に具体的ですがとてもグラフィックなんです。例えばピーターの【ロズ】には指がありません。ですが、映画では感情を伝える為にも指が必要なので、ディテールを埋めなければなりませんでした。その為、アニメーター達はストーリーをちゃんと伝えようと、原作に描かれているイラストを参考にしながら、細かい部分を詰めていきました。口に関してはない方がいいと思い、取ってしまいました(笑)

Ⓒ2024 DREAMWORKS ANIMATION LLC.

何故なら【ロズ】の感情は、彼女の振る舞いや動き、声と瞳さえあれば、アニメーターはすべてを伝えることができると思ったからで、それに関しては私自身も自信を持っています。

私自身もピクサースタジオで、ごく初期に関わった映画がいくつかあります。『レッズ・ドリーム』、『ルクソー Jr.』 です。これらの映画は短編であり、1 つは一輪車、もう 1 つは小さなランプが主人公です。

両方とも顔があるわけでもないのに、ちゃんと100%感情を持っています。だから本作でも同じようなことが絶対に出来ると思っていました。

その為、アニメーター達はバスター・キートンやチャーリー・チャップリンのような無声映画スターの身体の動きを研究しました。私たちチームが行った最も重要なことの1つは、ピーター・ブラウンのデザインの力強さとシンプルさを保ちながら、アニメーターが自由に仕事をこなせる、美しくシンプルなデザインを見つけることだったと思います。

「スクリーンで本物の動物が動いているようにも見せたかった」

Ⓒ2024 DREAMWORKS ANIMATION LLC.

ーー 登場する動物たちも個性的でした。彼らのキャラクターを表現するうえで大事にしていたこと、そしてどの動物を劇中フィーチャーしていこうと決められたのですか。

監督:動物のデザインは、作るのがすごく楽しかったです。デザインも何人かの人がリードして作り上げてくれ、それぞれが自分の得意とする特定の動物のデザインを担当してくれていました。

動物を様式化することで、美しく、目にも優しく、それでいて自然そのものに近づけることがとても重要でした。それはスクリーンで本物の動物が動いているようにも見せたかったからです。

キツネの【チャッカリ】は原作に比べると出番が多いのだけど、それは僕が物語のスターの1人だと思ったからです。彼は島のすべての動物を象徴するキャラクターとして、重要な役割を担っています。動物の生存本能に対する姿勢や、【ロズ】との関係も時間の経過により変化していく様子も、他の動物たちを代表しています。

それは熊の【ソーン】も同じです。原作では3頭登場しますが、映画では1頭で表現しています。理由は1頭にすることで、島で最も強い動物で誰もが恐れている動物である熊が、【ロズ】に対する態度を変えた瞬間、皆も後に続くだろうと思ったからです。

ビーバーの【パドラー】は、登場シーンは少なめですが、私は彼の役どころが大好きです。実はひとりのスタッフが、ビーバーが島で一番大きな木を彼の作品として切り倒そうとしているのではないかと提案したんです。私はそれがとても素晴らしいアイデアだと思ったので、そのアイデアをストーリーに取り入れようと思いました。やがて、それが物語の鍵になることに気づきました。お陰でビーバーが取り組んでいるそのプロジェクトが、島が救われる一部になったんです。

キラリの成長が映し出す、リアルな親子関係

Ⓒ2024 DREAMWORKS ANIMATION LLC.

ーー この映画では、子どもが直面するような問題を動物を通して描いてもいると思いました。物語を作るうえで、子ども達に伝えたいメッセージはありますか。

監督:子ども達に観てもらうことは、いつも意識していますし、映画を作る際に、誰も排除しないということをチーム全体で大切にしています。時には、子どもが理解できないようなストーリーやユーモアがあっても構わないと思いますが、常に誰も置いて行かない映画作りということを一番に考えています。

ピーターが原作に書いてくれているのですが、【キラリ】が幼いところから始まって、自分が生まれて来た状況を後になって知ります。10代になる頃には当然、理解するのが難しい多くの現実に直面します。だから、彼の境遇が物語の核になっているし、【キラリ】の成長そのものが映画全体を形成しています。私は原作のそこの部分がとても気に入りました。

原作に書かれたもう1つのアイデアは、【キラリ】が最初に家族の真実を理解した時の最初の反応は、親の【ロズ】に対して動揺を見せ、恨む点です。その後、時間の経過と共に【キラリ】も状況や彼女の想いを理解してきて、次第に優しくなっていきます。その変化は人間の親子関係と同じで、凄くリアルだと僕は思いました。

「自分のプログラミングを私たちは超えることが出来る」

Ⓒ2024 DREAMWORKS ANIMATION LLC.

ーー 「どうやったら友達と仲良くなれるのか?」という問いを、【ロズ】の姿で見せていると思いました。周囲からは「怪物」と言われている【ロズ】が、動物たちについて知ろうと努力します。この映画を通して、友達と上手く付き合う方法をどのように伝えられると思いますか。

監督:それはこの作品のテーマの1つですね。自分と違う状況、あるいは違う環境で育った人に対して理解するには時間がかかります。簡単に理解したつもりになって「この人はこういう人だ」と急いで結論を出してはいけないと思うんです。

まさに動物たちの【ロズ】に対する最初のリアクションがそうですよね。彼らは【ロズ】が異質だから怖くて、それこそ島から出ていって欲しいと思っています。そのリアクションには、理由がちゃんとあるんです。何かというと、人間は自分が生まれ育った環境によって特定の方法で物事を見て、特定の方法で行動するようにプログラミングがされているからです。そして、そのプログラミングは、中々壊すことが困難です。そのプログラミングを通して、行動したり相手を見たりする。だからこそ、排除するような行動をとってしまうんです。

自分のプログラミングを超えるという考えは、物語の非常に重要なテーマです。ロボットに限らず、私たち人間もそれに挑戦し、対処していかなければならないと思います。

この映画が教えてくれる「自分のプログラミングを私たちは超えることが出来る」というメッセージを受け取ってもらえると嬉しいです。

絵を描くだけじゃない、アニメーターに必要な“ストーリー”の力

ーー 「アニメーターになりたい」「漫画家になりたい」という子ども達に、アニメーターになる為に必要なことを教えてください。

監督:絵を描き続けるという努力に関しては、理解できるし良いことだと思います。なぜなら、常に絵が上手くなろうと思っているわけですから

子どもの頃は、絵が上手くなりたいと思っていましたが、アニメーターになりたいと真剣に考えたことはありませんでした。今思えば、その為には、絵だけでなく、ストーリーがあればよかったのにと思います。ストーリーは絵を描く上で役立ち、アーティストとして絵からストーリーを伝えようと努力することで、絵にメッセージが生まれます。

Ⓒ2024 DREAMWORKS ANIMATION LLC.

そして、それは1枚の絵である必要はありません。ノーマン・ロックウェルという画家をご存知でしょうか。彼は1枚の絵の中にイメージを持っています。そのイメージにはストーリーがあります。例えば彼の有名な作品「Shiner」を見てください。校長室の外の椅子に座っている顔にアザがある女の子を見てどんな子なのか想像しませんか?僕は、その絵をよく覚えています。彼女は喧嘩をした後のようにボロボロでしたが、とても幸せそうな表情でした。それで、彼女が戦いに勝ったことが分かりますよね? 

こうやって1枚の絵にもストーリーを込めることができるのですが、私たち絵を描く人は、1人のキャラクターだけを描くことが多いと思います。 私も子どもの頃、ライオンを描くのにとても苦労しました。今思えば、もう少しストーリーを考えていれば、もっと違った形で表現することが出来たのではないかと思います。

ただ絵を描くのではなく、ストーリーも考えてみて欲しいです。大作でなくてもいいから、1枚でいいので。

もう1人、ぜひ見ていただきたいアーティストがいます。ディズニーの伝説のクリエイターであるマーク・デイヴィスです。ディズニーランドのアトラクション『カリブの海賊』のラストに登場する、牢屋に閉じ込められた海賊達が鍵を加えた犬の気を引こうとする絵は、この1枚だけで全てが理解出来るストーリーが込められた有名な作品です。

15分でここまで描ける!監督流スケッチの秘訣

ーー 最後に上手に描かれるコツをイラストを描きながら教えて下さい。

監督:自分のお気に入りのペンを見つめて描くといいですよ。

まずは、描くキャラクターの感情、表情を頭に思い描いてから描いていくことが大事。

ちなみに僕は、【チャッカリ】を描くにあたり、キツネのドキュメンタリーも観たし、自然史博物館を訪問しました。そこで、動物たちを間近で見ることができたので、とても参考になったんです。実際に動物を見ることも大事。ちょっと不思議な感じに聞こえるかもしれませんが、実際に目に映るものを描いてみてください。よく観察することが大事です。周りのもの、生き物を観察して描いてみてください。

ーー 顔から描くのですね。

監督:そうですね。どんな表情なのか、イメージして描くことが大事なので、自然と顔からになります。今回はハッピーなキツネを描いていきます。

時間があれば、ちょっとしたラフスケッチを描いて、ちょっとしたアイデアをつかむようにしています。

あと全部を同じ太さで描かない。違う太さで描く。力を入れて描いたり、力を入れないで描いたり線に強弱をつけて表現する。そうすると上手く見えます。自分のイメージした絵を描く為にペンを変えたりするのもいいですね。お手製のペンを作ったり、ブラシを活用したり、用具を変えながら描くのもいいと思いますよ。

限られた時間だったけれど、15分でここまでは描けます。よく観察して、その主人公がどんな感情なのか想像して描くのがコツです。頑張ってくださいね。

クリス・サンダース監督(左)と伊藤さとりさん(右)

『野生の島のロズ』
2025年2月7日(金)全国ロードショー
Ⓒ2024 DREAMWORKS ANIMATION LLC.
配給:東宝東和、ギャガ
■公式HP:https://roz-movie.jp/
■公式X:@Dreamworks_JP
■公式instagram:@dreamworks_jp
■公式TIKTOK:@roz_movie_japan

伊藤さとり

映画パーソナリティ/心理カウンセラー。映画コメンテーターとしてTVやラジオ、WEB番組で映画紹介。映画舞台挨拶や記者会見のMCもハリウッドメジャーから日本映画まで幅広く担当する。
●連載一覧はこちら>>

タグ:

Page Top

error: Content is protected !!