スクリーンの中の子どもたちは“理想像”? 『ふつうの子ども』が映す親と子のリアル
2025.09.03

映画やドラマに登場する“理想の子ども像”
映画やドラマを見ていて、ふと違和感を持ったことはありませんか?
可愛い子だったり、顔が整った子だったり、華奢で小さめな子が多かったり。子どもが小学校に通っている親なら気づいていると思いますが、実際の子ども達は身長も体型も様々で、眼鏡をかけている子もいたり、スポーツ刈りの子もいたり、ちょっとおませな子もいたり、発育の早い子、遅い子と、ひとクラスを見ても面白いくらいバラついています。
なのに何故、物語の世界には華奢で整った顔立ちの大人しい子どもが多いのか。

実は映画やドラマの世界では、今、女性の描き方について変化が起こっており、今まで多く描かれてきた男性目線の“理想の女性像”から、自立している女性だったり、だらしない女性だったりと様々なタイプの女性が登場してきています。
そう考えると、子どもの描き方にももしかすると親目線の“理想の子ども像”が詰め込まれているかもしれません。もちろん、小さくて大人しい美少女、美少年が必要な物語もあります。

ただ映画やドラマは日常を描くことが多いので、本来はより子どもらしい自由さや、役によっては小さくて可愛らしい容姿でなくてもいいはずです。そこに着目した“どこにでもいる子ども達の世界”を綴った画期的な映画が『ふつうの子ども』でした。
小4の教室から始まる恋とイタズラ

まず主人公は、あなたの子どものクラスにいそうな男の子。小学4年生のクラスの光景は、あなたが授業参観で目にする色とりどりの子ども達の学校生活です。大きい子、小さい子、優等生タイプの子、自由な子、大人しい子から騒がしい子までさまざま。さらに不登校なのか欠席なのか、空席まであります。先生役の風間俊介さんも大きな声で生徒役の子ども達に伝えようと必死です。授業の内容は宿題だった作文の発表。ここでひとりの女の子・心愛ちゃんが、「環境破壊」をテーマにした自身の作文を読み上げます。まるで10代の活動家グレタ・トゥーンベリさんが書いたような内容なんですが、その姿に主人公の唯士君はハートを射抜かれます。

どうなるのだろう?とスクリーンを見つめていると、案の定、好かれたい唯士君は、環境問題に一緒に取り組めば心愛ちゃんと仲良くなれるのではと話しかけます。けれど大人の世界と同じで、物事はそう上手くはいかず、陽斗君が割って入ってくることで三人での環境破壊反対を掲げたイタズラ活動が始まるのでした。
友達の前と親の前、態度が変わる子どものリアル

映画で子ども達の恋の行方を楽しめるとは。そこに大ヒットした映画『グーニーズ』(1985)をよりリアルにしたひと夏の冒険までMIXされた本作。親の目を盗んで計画を実行する際の子ども達のキラキラした瞳と、ニュースになった時の泳ぐ瞳が純粋すぎて愛おしいものの、見ているこちらもドキドキするのです。

それだけでなく、物語は、子どもだけでいる時と親といる時の態度の違いもしっかり描いているのがリアル過ぎて、今までに無かったような。あるシーンでは親達が集結するのですが、自分の子どもだけは嘘をつかないと信じる親、子どもを全否定する厳しい親、静かに状況を見守る親と様々なタイプが顔を揃えます。このシーンから、親の決めつけのせいで、悪いことをしても許されると思ってしまう子どもや、素直に想いを伝えられなくなる子どももいることに気付かされます。
“親の理想”を手放すと見えてくる子どもの魅力

好きなことに一生懸命な子どもを否定する親の背景には、「こう育って欲しい」という自分の理想像があるわけで、それを子どもに押し付けるのは失礼な話です。さらに子どもが聞かれたことを親が代弁するのも間違った行動で、それでは考えられない子どもに育ってしまいます。後半のシーンで涙が止まらなくなったのは、子ども達の感情が手に取るように見えてきたから。本作は、アナタと我が子の物語であり、我が子のいきいきとした姿を見つめながら、幼少期の自分と親の関係にも想いを馳せる「子ども返りを楽しむ映画」。間違いなく親子で楽しめる生活圏内アドベンチャームービーなのでした。
ふつうの子ども
9月5日(金)テアトル新宿ほか 全国公開
配給: murmur
©2025「ふつうの子ども」製作委員会
映画『ふつうの子ども』公式サイト
公式X
公式Instagram

伊藤さとり
映画パーソナリティ/心理カウンセラー。映画コメンテーターとしてTVやラジオ、WEB番組で映画紹介。映画舞台挨拶や記者会見のMCもハリウッドメジャーから日本映画まで幅広く担当する。
●連載一覧はこちら>>
関連記事
-
2023.07.27
-
2023.12.11
-
2022.09.16
-
2022.07.02














