人間愛に満ちた傑作『マイ・エレメント』違うもの同士だって分かり合える
2023.07.27
ディズニー&ピクサーのテーマは“愛”
国籍の違う者同士は、生育環境もしきたりも違うから結婚は困難。本当にそうでしょうか?肌の色が違ったって言語が違ったって環境が違ったって、結婚し夫婦関係が良好な人達も世界には多く居ます。よく言われる「価値観」が合わない、という決めつけは人への理解力を狭め、可能性を閉ざしてしまいます。ディズニー&ピクサーは、毎回、そんな「間違った思い込み」を正すように、“愛”について子供たちに映画というファンタジーで教えていくのです。
そんなディズニー&ピクサーの最新作のタイトルは『マイ・エレメント』。本作は『インサイド・ヘッド』のように形のないキャラクターが主人公で、『ズートピア』のように様々な種族が共存する街が舞台。しかも四大元素と言われる「火」「水」「風」「土」が生きている世界です。
火と水のありえない恋
物語の主人公はエンバーという「火」の女の子。彼女は「火」のエレメント達が集まるファイアタウンの雑貨店の一人娘で、移民としてエレメント・シティにやってきた両親が一代で築き上げた事業の跡取り娘になるよう育てられました。
ある時、ひょんなことからお店で水漏れが発生し、一緒に流れ込んできた「水」の青年、ウェイドと出会います。真面目な彼は市役所の検査員で、店の水漏れという不具合を見つけたことでエンバーの前で「違反切符」を切ってしまうのです。
お父さんの夢であるお店が潰れたら一大事!?エンバーはウェイドに頼み込み、二人で力を合わせてお店が閉店にならないように奮闘するのですが、これをきっかけに二人はお互いを意識し始めます…。
物語のベースは移民の思い
CGにより浮かび上がる柔らかな元素たちの動き、特にエレメント・シティの美しさは目を見張るもので、それぞれの特性を活かした建造物や列車や船のスタイルも斬新。これはクリエイターによる創造力の産物としか言いようがありません。
今作の物語を生み出したのは、『アーロと少年』のピーター・ソーン監督で、自身の両親が韓国からニューヨークにやって来てブロンクスで食料品店を経営した経験からインスパイアされたそう。そう聞くと、エレメント・シティはニューヨークで、ブロンクスがファイアシティ、さらには「火」の人々が移民なのではと想像ができます。げんに「火」が差別を受けている描写もあるんですから。
癇癪の原因は必ず潜んでいる
特に注目したいのは、「火」のエンバーは情熱的で癇癪持ち、「水」のウェイドは寛容で共感能力が高いという設定。更に何故「火」のエンバーが怒りっぽいのかを紐解くと、本心を隠して「我慢」しているからという『私ときどきレッサーパンダ』のようなアンガーコントロールについても描かれていました。
映画ではお父さんがお店の切り盛りの仕方を、エンバーに幼少期から教えている画が映し出されます。これにより、エンバーが「自分はお店を継ぐんだ」と思い込むようになり、自分の考えを持ちづらくなるのです。
差別は単純な発想から生まれる
更に父親が言い続ける「水にろくなヤツはいない」という言葉。これもまた刷り込みで、父親が今まで「水」から嫌な目にあったから、「水」という種族は皆、嫌なヤツと一括りにして子供に伝えていることから、エンバーは、「水」は自分とは違う生き物と思い込んでしまったのです。
本来、人間は個により考え方も違うので、数人に嫌なことをされたからといって種族自体を嫌うのはナンセンス。人間関係において大切なのは、性別や国、肌の色ではなく、ひとりひとりの言動や行動をちゃんと見ることだと映画は伝えていました。
それだけでなく、「この人との関係は上手くいくはずがない」という思い込みを、「火」と「水」の恋というどう考えても無理そうな関係に置き換えたことから、驚きの展開で希望をもらえる物語へと昇華。この映画は、種族や性別、環境が原因で分かり合えないなんて本来ないのよ、と子供達に教えてくれる「人間愛」に満ちた傑作ですよ!
伊藤さとり
映画パーソナリティ/心理カウンセラー。映画コメンテーターとしてTVやラジオ、WEB番組で映画紹介。映画舞台挨拶や記者会見のMCもハリウッドメジャーから日本映画まで幅広く担当する。
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『マイ・エレメント』
8月4日(金)全国ロードショー
■監督:ピーター・ソーン(『アーロと少年』)
■プロデューサー:デニス・リーム(『カーズ2』、『スター・ウォーズ エピソード 3/シスの復讐』)
■配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©2023 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
※この記事は、令和2年度第3次補正事業再構築補助金により作成しました
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