キーワードは「共に」ダウン症の書家・金澤翔子が才能を開花させるまで

コラム

2023.06.01

©マスターワークス

自立がテーマの子育て

「自立」という言葉が発達障がいや知的障がい、ダウン症の子どもを持つ親の子育てのテーマになります。果たしてこの子は自分がこの世から居なくなった時に生きていけるのか?そう考えた時に湧き上がってくるのは、それまでに出来ることはなんでもしたいという思い。そんなお母さんお父さんに是非見て欲しいのがドキュメンタリー映画『共に生きる 書家金澤翔子』 (2023年6月2日公開)です。

本作でカメラが見つめるのはNHK大河ドラマ「平清盛」の題字でも知られる書家・金澤翔子さんと、その母親である泰子さん。ダウン症の翔子さんが揮毫する書は多くの人の心を揺さぶり、代表作である「風神雷神」は京都・建仁寺の国宝・俵屋宗達の「風神雷神」の屏風に並んで飾られるほどで、ニューヨークやプラハで個展を開くなどグローバルに活躍しています。ではどうやって翔子さんの才能は開花したのか?さらには彼女が人前に立つ意味を映画は綴っていくのです。

社会全体で子育てをする意味

冒頭、引越しの模様がスクリーンに映し出されます。そこには一人暮らしをすることになり、嬉しそうな翔子さんとお母さんである泰子さんの姿が…。ダウン症の人が一人暮らしを出来るのか?という疑問が正直湧いてしまうのですが、そこは翔子さんを信頼するお母さん・泰子にとっての念願でもありました。

翔子さんは30歳にして「自立」を実現化。しかも翔子さんは敢えてスーパーを利用せずに、商店街の人々との一対一の付き合いをしていきます。それは「近所付き合いから互いを労わる」方法であり、現実的に考えても社会全体において好循環を招きます。現に映像には翔子さんと地元の人達との交友が微笑ましく映っていました。

“共に頑張る”が才能を開花させる

では彼女はどうやって人の心を動かす書家になれたのか?翔子さんは5歳で書道を始めます。小学校入学時は、通常学級での登校が認められたのですが、ある時、学校側から「通常学級は無理」と宣言されてしまいます。そんな時に自身が書家であったことから10歳の娘に「般若心経」を来る日も来る日も筆で書かせたそうです。生きる術を伝授しようと母と娘で行った作業が、翔子さんの未来を変えていき、その時、書き上げた「涙の般若心経」は後に有名になるのですが、その4年後、夫である裕さんが急死。泰子さんはシングルマザーになり、以降は正真正銘の二人三脚で生きていくのです。

映画は、諦めずに突破口を見出し続けた泰子さんの言葉と共に、ダウン症の子を持つ親たちが泰子さんと翔子さんとの出会いを通して希望を見出していく姿や、翔子さんの揮毫が多くの人の心を捉えて離さない理由を、インタビューや席上揮毫会の模様を通して観客に伝えていきます。

ドキュメンタリーで映画を撮るとは、伝えたい現実があり、影響を及ぼすテーマがそこにあるということ。展覧会でその圧倒的な書に出会い、心を奪われた宮澤正明監督は、母と子の光り輝く命を映像として残したくて、多くの人に届けたくて映画にしたに違いないのです。

ダウン症に限らず、やりたいことが見つからない子であれば、共にやり続けたらいつか「光」が見える。子どもの自由意志に任せることも大事だけれど、幼少期は親が「一緒に続ける」ことで子どものやる気が持続するのも事実。才能は勝手に育つのではなく、共に「育む」のだと泰子さんの行動から教えられるのです。

伊藤さとり

映画パーソナリティ/心理カウンセラー。映画コメンテーターとしてTVやラジオ、WEB番組で映画紹介。映画舞台挨拶や記者会見のMCもハリウッドメジャーから日本映画まで幅広く担当する。
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『共に生きる 書家金澤翔子』

2023 年 6月 2 日(金)劇場公開
出演:金澤翔子 金澤泰子
監督:宮澤正明
プロデューサー・構成:鎌田雄介 音楽:小林洋平 編集:宮島⻯治 撮影:宮澤正 明 大田聖子 アーカイブ映像監督:小島康史
オンライン:太田正人 整音:⻄條博介 製作:マスターワークス 制作: GENERATION11
配給・宣伝:ナカチカピクチャーズ 配給協力:ティ・ジョイ
2023年/日本/79分/カラー/DCP Cマスターワークス
公式 HP:shoko-movie.jp

※この記事は、令和2年度第3次補正事業再構築補助金により作成しました

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