子育て中に響く「ほんとうは、いい子なんだよ」映画『窓ぎわのトットちゃん』

コラム

2023.11.27

© 黒柳徹子/2023映画「窓ぎわのトットちゃん」製作委員会

トットちゃんが愛される理由

1981年に刊行されて以来、世界中で愛されている児童小説「窓ぎわのトットちゃん」。それは黒柳徹子さんが自分の子ども頃を綴ったもので、お転婆すぎるトットちゃんが新しい学校に行き、友達にも影響を与えながら活き活きと生きていく姿が描かれています。自分達が小さかったあの頃、電車の教室がある小学校に思いを馳せ、目を輝かせて読んだ懐かしい本。大人から問題児と言われようが、こんなに愛おしい子になれるんだという発見と、自由で楽しい学校への憧れは世界中の子どもたちを虜にしました。その本が、遂にアニメーション映画になってこの冬公開。そこには黒柳徹子さんのある“想い”があったからでした。

トットちゃんがアニメになった理由

実は「窓ぎわのトットちゃん」と言うと、絵本画家いわさきちひろさんの表紙と挿絵の印象が強いと思います。だからそのイメージを払拭させるには、実写映画でも良いのではとも思いましたが、今までも実写化のオファーは多かったものの、今回、アニメーションでの映画化というので黒柳さんが快諾したとのこと。その理由は“若い世代に見てほしい”という想いからで、実際完成した映画は、確かに親子で見られるファミリー・ムービーになっていました。

みんな一緒、なんでも一緒

今改めて映画でトットちゃんを見た大人の中には、「あっ、うちの子に似ている」とか「同じ学校にトットちゃんみたいな子がいる」と思う人もいると思います。冒頭、トットちゃんは「問題行動を起こす子」として小学校の転校を進められるのですが、お母さんは仕方なしに新たな学校トモエ学園を選びます。そこには様々な子が在校し、「みんな一緒、なんでも一緒にやる」という校長先生の理念で伸び伸びした教育をモットーとしていました。

子どもの意思を尊重し、最後までやらせてみる

他にも興味深いのは、トイレにお財布を落とし、学校の庭の肥溜めを汲み続けるトットちゃんの姿を見た校長先生が、気が済むまでやっていいと言いながら後片付けもするよう穏やかな口調で伝えるシーンでした。それは、自分でなんとかしようとしている子供の気が済むまでやらせてみると癇癪も起こさず、達成感を得るという象徴的なエピソードでした。考えてみると怒る理由は大人側の問題で、庭を汚くしたことで自分が後片付けをしなければいけないし、その子の服が汚れたらどうしようという不安からです。けれど、その子が片付ければいいし、服は替えを用意すれば良いだけのこと。どんなことも先回りして大人が考えてしまうから、子供と衝突するのだと気付かされます。

子どもの得意なことを見逃さない

そんなトットちゃんは、本当に“困った子”なのでしょうか。最初の学校では机の音が面白くて授業中、騒音で先生を困らせます。けれど新しい学校で校長先生の教えを受け止め、小児麻痺の友達に自分と同じ体験をしてもらいたくてあの手この手を考えます。

最近、学校での子どもの「お世話係」が少し問題になりましたが、全てを否定するのもどうかと実は思っています。トットちゃんのようにお世話好きな子どもも世の中にはいて、その経験から他者の気持ちを思いやったり、一緒に楽しいことを作ろうと想像するようになるからです。確かに、子どもに子どもの面倒を全て見させるのは違うし、この子はお世話をするのが好きだからと決めつけてやらせるのはダメ。本作の校長先生のように、その子たちの関係を大人が見つめながら、時には声をかけつつ、自然に生まれる友達関係を見守って、大事なところを介助する、でいいのかもしれない。

大切な友達との関係が更に心を育む

小学校教育で学ぶのは、幼稚園児のひとり遊び期から他者と関わり、同じ学びをする環境に入ることで、他者の気持ちを理解しようとする感情なのではないでしょうか。それには校長先生のように「相手の強い意思を尊重し、見届ける」ことを大人もやる必要がある。子どもは大人の姿も真似をします。「困った子ではなく、本当は良い子だよ」とトットちゃんに言った校長先生のように子どもの話を最後まで黙って聞くのも大事。そんな経験を経てトットちゃんがひとりの少年に興味を持ち、相手を想いやりながら“一緒に遊ぶ”友達になっていく姿は、紛れもなく“良い子”だったのです。

伊藤さとり

映画パーソナリティ/心理カウンセラー。映画コメンテーターとしてTVやラジオ、WEB番組で映画紹介。映画舞台挨拶や記者会見のMCもハリウッドメジャーから日本映画まで幅広く担当する。
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映画『窓ぎわのトットちゃん』
2023年 12月8日(金) 全国東宝系にて公開
© 黒柳徹子/2023映画「窓ぎわのトットちゃん」製作委員会 
出演:大野りりあな 小栗旬 杏 滝沢カレン / 役所広司 他
監督・脚本:八鍬新之介 
共同脚本:鈴木洋介 
キャラクターデザイン:金子志津枝
制作:シンエイ動画  
原作:「窓ぎわのトットちゃん」(黒柳徹子 著/講談社 刊)

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