誰が「普通」の人?『はざまに生きる、春』に描かれる発達障害の魅力
2023.05.21
想像で診断してはいけない発達障害
精神科医などの的確な診断がない限り、「あなたは発達障害だ」と口にすることは出来ないものです。それは映画やドラマでも同じで、見るからに特性がある登場人物でも「発達障害の人」と劇中で紹介されない限り、記事にも書くことは出来ません。それは勝手な憶測だからであり、世界は様々な人によるグラデーションで成り立っているからです。
だけど最近は徐々に、主人公は発達障害と公言するドラマや映画が増えてきて、当事者やその家族が身近に居ることを伝える物語をやっと日本でも目にするようになりました。
医療監修者のアドバイスも入った青春映画
そんな中、発達障害の人達に取材し、医療監修者の人たちのアドバイスをもとに生まれた完全オリジナル脚本による映画が2023年5月26日(金)に公開されます。タイトルは『はざまに生きる、春』。
この「はざま」とはグレーゾーン(発達障害の傾向はあるが、診断基準の全てを満たしていない)の人のことだと劇中伝えられますが、映画を見ていると、発達障害の人の感覚とそうではない人の価値観との間で揺れる主人公・春の心をタイトルに込めたように思えます。
アスペルガー症候群の主人公と彼に惹かれた女性の物語
物語の視点は雑誌編集者・小向春(小西桜子)によって映し出されます。彼女には恋人がいるのですが、ある日、青しか描けない画家でアスペルガー症候群の屋内透(宮沢氷魚)と出逢います。彼の純粋さにどんどん惹かれていく春は、彼の特集記事を担当することになるのですが、周囲が屋内のことを「普通じゃない」「面白い」という言葉を耳にして、彼女の中で「違和感」が膨らんでいくものの、「人の気持ちが分からない」と言う屋内に対しても自分の気持ちをどう整理していいのか分からずに悩むのです。
普通じゃないという言葉の無自覚さ
日本では、日を追うごとに発達障害の人が増加しているとのことですが、これは発達障害が世界的に認知され、診断する人が増えたからだと言われています。いわゆる目には見えない障害ですが、発達障害の検査を受けたとしても、グレーゾーンの子供も多く存在するので、学校における規定の勉強方法が合わない子供たちも沢山います。
そんな彼ら彼女たちに対して「変わっている」「普通じゃない」と簡単に言ってしまう社会を変えたいという制作陣の思いから、彼らの考え方や魅力を伝える作品が増え始めています。
個性的な作風を育てるのは周囲の肯定的な声がけ
この映画『はざまに生きる、春』ではアスペルガー症候群の主人公・屋内の他にも「普通じゃない」と言われる人気カメラマンの女性が登場します。彼女のキャラクターについては「発達障害を持っている」とは紹介されませんが、様々なものに目が行き、人との距離感が近く、独特な着眼点を持っていることで、ユニークな写真が撮れると評判であるというセリフや行動から、彼女もまた「特性」を持っていると観客は理解します。
劇中では屋内やこのカメラマンの親は登場しませんが、彼らの伸び伸びとした感情表現を見ていると、「その視点を褒めていた」のではと想像してしまいます。だって、唯一無二となる「個性」を活かすには、「否定」せずに「肯定」することが何より大事であって、周囲からの賞賛は大きな糧になり、やがて「才能」として人に役立つ結果を生むのですから。
型にはめようとしない子育ての大切さ
自分と違うものに対して、拒絶したり警戒する感情は、その人の心の狭さの表れでもあります。自分と違う考えや外見、行動は「変」ではなくて、その人の「魅力的」な部分。それを体現するかのように葛里華監督が綴る脚本と優しい色合いの世界はどこまでも透明感があり、世界はカラフルで様々な人の違った感性によって人は喜びや感動、発見を手にするんだと伝えているようでした。そう、「普通」なんてそもそも世界には存在しないし、「普通」というものは、大衆による相対的な価値観を言語化したもの。それこそ「普通」という言葉が「型にはめる」ということなんです。
それと生きづらさを抱えやすいのは、「普通」という型にはめようとする社会に対して戦う「発達障害」の子を持つ親や恋人にも当てはまることも知って欲しいのです。「型にはまる」ことが良いことであるという謝った認識を大人が持たないようにすれば、多くの人が社会での居場所を見つけられると信じています。
伊藤さとり
映画パーソナリティ/心理カウンセラー。映画コメンテーターとしてTVやラジオ、WEB番組で映画紹介。映画舞台挨拶や記者会見のMCもハリウッドメジャーから日本映画まで幅広く担当する。
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『はざまに生きる、春』
5月26日(金)全国ロードショー
配給:ラビットハウス
©2022「はざまに生きる、春」製作委員会
公式サイト:hazama.lespros.co.jp
Twitter:@HazamaBlue
※この記事は、令和2年度第3次補正事業再構築補助金により作成しました
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